太鼓踊りのバチ

小湊太鼓踊り
鹿児島の太鼓踊りを初めて見たのは、1991年、加世田小湊のものだった。「厳かに鉦の音ばかりが響いて、太鼓の音は聞こえないなあ」と感じた。小湊の太鼓のバチは藺草製。今回は、薩摩半島におけるバチの種類とその分布について、検討してみたい。

日置市では、ドラムスティック状の木製のバチを用いている(徳重大バラ太鼓踊り大田太鼓踊り伊作太鼓踊り、尾下太鼓踊りなど)。北薩では、この形状が多いようだ。万之瀬川を挟み、南さつま市加世田益山と、南九州市勝目地区の太鼓踊り(上山田・中山田・下山田)では、ワラ製の縄状のバチになる。南さつま市加世田内山田津貫小湊及び大浦では、藺草製ナス型のバチを用いる。枕崎市鹿篭、南さつま市坊津町久志では、木製すりこぎ型となる。久志のものは、小さくナス型に近いともいえる。藺草製ナス型は三島村黒島にも、分布圏が続く。

これらの分布圏とは別に、すりこぎ型は、南さつま市加世田の稚児踊り、いちき串木野市の市来七夕踊りでも見られる(手持ち太鼓用)。日置市の伊作田踊りのものは同じすりこぎ型でも藁製だ。

木製のバチでは太鼓の音がよく響き、藁製・藺草製になるにつれ鉦の音のほうが強調される。藁製・藺草製地区では、太鼓の音を聞かせるというより、太鼓を抱いた「踊り」を見せている。

鹿児島の太鼓踊りは、①念仏踊り(先祖供養)の要素と、②虫送り(豊作祈願)の要素からなっていることが知られている。バチを比較することにより、その響きの違いから、背景を読み解くことができないだろうか。
(鹿児島民具学会2012年7月例会 発表要旨)