田の神は全国的にみられる観念であるが、石像として常設されているのは、南九州独特である。仏像型→僧型→旅僧型の系統と、神像型→神職型→神舞神職型・田の神舞神職型という、二つの発展系統があるとされる。金峰町では、大野下馬場の1715年が最も古く、僧型でメシゲと鍬とを持つものが多い。阿多地区では庚申供養との習合が、銘文から分かる。
京田の田の神は、シキを被って法衣を付けた典型的な僧型の田の神石像。しかし、麻の葉を両手で持つ姿は、京田独特である。
京田は、竹原、塩屋堀とともに、近世には田布施三ケ浦と称された。幅2キロの砂丘を越え、吹上浜に通じる、半農半漁の浦浜集落であった。
京田では、漁網にも使う麻苧の栽培が行われていたとされ、苧畠の地名や、麻殿の祠が残る。このアサドンや、麻の葉を持つ田の神を祀る組織として、タカ（浜高組合）が存続し、現在も祭祀が行われている。社会組織タカの名は、吹上浜南端の加世田小湊にも伝わる。
京田のとなり、竹原、塩屋堀の田の神には、「弁指」の刻銘が見られる。ベンザシは、古代の弁済使にゆかりを持ち、九州では、近世、漁労やムラを取りまとめる役職呼称の一つであった。「弁指」刻銘から、浦浜としての社会組織を垣間見ることができる。また、塩屋堀田の神には、農村の名主「功才」の刻銘があり、半農半漁のムラの性格を伝えている。
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| 京田の田の神石像（1992年撮影） |
（2021.7.11鹿児島民具学会例会発表要旨）
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