坊津平原の十五夜茅被り

十五夜ソラヨイのように茅を被って,綱練り場所まで茅を運ぶ行事。南さつま市坊津町では実に様々な八月十五や行事があります。特徴的なことは,綱引きをはじめとした十五夜本番の行事だけでなく,準備段階から個性豊かに伝統行事を伝えているということです。
平原では茅を集めるカヤヒキの行事に,「カヤカブリ(茅被り)」「カヤカル(茅かるい=茅背負い)」という部分があるのが特異なようです。

●写真帖:南さつま市坊津平原の十五夜茅被り

写真をご覧になると分かるように,カヤカブリは知覧町のソラヨイと同様の衣装です。茅を集積場所(ウマンカン=馬神石祠の前。岩下プロパン倉庫そば)に予め集めておきます。後日行われる「カヤカル」では,各世帯から1把ずつ出すそうですが,カヤカブリでは当日までに青年・子供が集めてきます(現在は大人が軽トラックで運ぶ)。

カヤカブリの制作は,まず,長さ1.5メートル程度に束ねられた茅の上部をくくり(くくるのも茅),下側を広げます。そこへカヤカブリになる子供が頭を下から入れて,立ち上がります。最後に上部を整えて完成。
2006年は9月29日がカヤカブリの日でしたが,午後7時前にプロパン店の前で作業が始まりました。見ていて感じたのは,親御さんが子供のために茅の衣装を作るという,実にほのぼのとした風景でした。かつては先輩のニセ衆が指導して作っていたのでしょうが,今の姿もすばらしい集落行事だと感じました。

準備のできた茅の衣装は,モデルの子供が脱いで,一旦ひろげたままその場に据え置かれます。全員の衣装がそろったところで出発。歩道を実にゆっくり行進します。道路側では,先輩のニセ衆が十五夜唄である「オクメクドキ(お久米口説き)」を歌いながら伴走します。その声に,カヤカブリ衆は威勢のいい合いの手を入れていきます。唄は晴れ晴れ,歩幅はゆっくり,勇壮に進むわけです。道路の両側では見物の人々が温かく見守っています。今は伴走する軽トラのライトに照らされて進みますが,かつては半月の月明かりだけが頼りだったのでしょう。

公民館「平原集会施設」下まで来ると,歌声はいっそう大きくなります。最後の歌い上げでカヤカブリ衆がグルグルまわってクライマックスを迎えました。このあと,公民館の庭に特設された土俵で十五夜相撲があります。

お話を伺った方の誰もがおっしゃいました―「2日のカヤカルに来ればよかったのに。カヤカルのほうがもっと面白い」。それもまた楽しみです。ただ今日のカヤカブリも,私はソラヨイのルーツを見たような興奮を覚えました。平原のカヤカブリはイベント化されていない,素朴の伝統行事だと思いました。

●時間:午後7時前県道沿いの馬神出発,午後7時30分頃平原集会施設到着。
●場所:南さつま市坊津町平原公民館付近